ここまでの説明で、宅建の難易度や有効な勉強方法についてご理解頂けましたでしょうか。宅地建物取引士は、他の国家資格と比較をすると、難易度はさほど高くありません。
しかし、近年試験内容が難しくなっていて、受験者のレベルも上昇傾向にあるため、計画的な試験対策が必要といえます。自身のライフスタイルを考慮しながら、有効な方法で学習時間を確保してみてください。
では、実際に、どのくらいの人が合格しているのか見ていきましょう。
以下の表は、平成22年度から令和2年までの受験者数・合格者数・合格率をまとめたものです。
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
令和2年度 | 204,247 | 34,337 | 16.8% |
令和元年度 | 220,797 | 37,481 | 17.0% |
平成30年度 | 213,993 | 33,360 | 15.6% |
平成29年度 | 209,354 | 32,644 | 15.6% |
平成28年度 | 198,463 | 330,589 | 15.4% |
平成28年度 | 198,463 | 30,589 | 15.4% |
平成27年度 | 194,926 | 30,028 | 15.4% |
平成26年度 | 192,029 | 33,670 | 17.5% |
平成25年度 | 186,304 | 28,470 | 15.3% |
平成24年度 | 191,169 | 32,000 | 16.7% |
平成23年度 | 188,572 | 30,391 | 16.1% |
平成22年度 | 186,542 | 28,311 | 15.2% |
参照:試験実施概要(過去10年分)
毎年約20万人の受験者がいる中で、約3万人の人が合格しています。つまり、合格率は約16%前後。他の難関国家資格と比較すると、宅建は取得難易度がそれほど高くはありません。
ただし、綿密に対策を講じないと合格することはできまないでしょう。試験方法はマークシート形式。専門用語や法令など幅広い範囲の知識を蓄えるために、相応の勉強量が必要です。
宅建は弁護士や医師などの国家資格よりは難しくないことを説明してきました。しかし、合格率が約16%というのは国家資格試験全体の合格率と比較すると、本来は高い数字ではありません。
難易度は高くないのになぜ合格率は低いのか?ここでは、合格率が低い理由を紹介していきます。
① 誰でも受験できるから
宅建は基本的に誰でも受験できます。しかし、他の国家資格ではそうはいきません。例えば、医師国家試験は大学や大学院で医学の課程を修了することが受験の条件です。
対して宅建は基本的に誰でも受験できるため、中には勉強が不十分な状況で受験する人もいます。それが、合格率が低い一因となっているのです。
② 新入社員や仕事の合間に受ける人が多いから
令和2年度の資格試験実施結果の概要で発表された受験者層を見ると、「新入社員」や「業務の合間に試験を受けている人」が大半を占めています。
年齢層は、男性の平均年齢35.4歳、女性の平均年齢33.4歳 と、現在社会人として活躍している方が多いです。このことから、普段の仕事と並行して受験勉強をしていることが読み取れます。また、新入社員が入社後すぐに会社の指示で受験することも珍しくありません。
このように、準備が不十分な状態で受験していることが合格率を下げている要因のひとつです。
③ 試験の内容が難しくなっているから
平成27年に宅建が、「宅地建物取引士(旧:宅地建物主任者)」に変更されたのを機に、全体的に出題内容が難しくなっているといわれています。もともと、不動産業界の独占業務が関係していることから、専門性の高い内容が出題されていました。しかし、士業の一員に加わったことで、さらに高い知識を求められているのではないでしょうか。
④ 合格点は毎年異なるから
宅建は、50点満点の問題が出題されるなかで、合格と判断される明確な基準点は設けられていません。つまり、何点取れば合格できるといった境界線は定められていないのです。例えば、平成27年の合格点が31点に対し、平成30年は37点と合格ラインが6点上がっています。一方、合格率は点数に左右されずほぼ一定の数字のままです。
このことから、合格率を一定水準に保つことを前提に、受験者のレベルや問題の難易度に合わせて合格点を定めていると推測できます。
その年の受験者のレベルが高ければ自然と合格点は高くなります。
⑤ 人気のある資格で受験者も増えているから
合格率が低い理由のひとつとして「人気が高い資格なため、気軽に挑戦する受験者が年々増加傾向にある」ことが挙げられます。実際に、過去の受験者数では、平成27年の受験者が194,926人に対し、令和元年は220,797人と約3万人以上増加しています。
では、なぜ宅建は人気が高いのでしょうか?主な理由は、以下のとおりです。
・就職や転職で有利
・スキルアップや昇給、昇格につながる
・士業の中では比較的取得しやすい
・合格すると一生資格は有効(取引士証の更新は5年に1度)
このように、宅建を取得することにより、得られる影響が大きいのが人気の一因です。もともと国家資格の中で高い受験者数を誇っていることを考慮すると、今後も受験者が増加していくことでしょう。
時間が取れないのであれば、勉強方法を工夫することが重要です。社会人には独学のほか、通信教育、通学講座も有効です。それぞれ時間、費用、モチベーションの面でメリット・デメリットがあるので、自分に合った方法を見極めましょう。
① 独学
宅建を受験する人の中で、最も取り入れられているのが独学です。私もそうでした。youtubeは結構活用できるのでおすすめです。自分の生活環境に合わせて好きなときに勉強したいという方や費用を掛けたくないという方はこの勉強法を選択します。
しかし、デメリットもあります。自分自身でテキスト選定や情報収集をする必要があり、効率がよくない点です。さらに、自己流で進めていくため、見込み違いの勉強をしてしまうリスクもあります。
② 通信教育
自身で参考書を選定し、学習スケジュールを組むのが難しいという方は、通信教育という選択肢もあります。教室に通う必要がなく、受講料以外に費用をかける必要もありません。用意された最新の教材を使って勉強できるうえ、自分のライフスタイルに合った学習スケジュールの組み方をフォローしてくれる制度もあります。
このように、独学と比較すると、無駄な時間を消費せずに学習時間を有効活用できる可能性が高いです。しかし、基本的に一人なので自分自身でモチベーションを維持することが重要になります。
③ 通学講座
費用と時間に余裕がある方は、通学式の講座も一手です。宅建試験の内容や受験対策をスクール形式で学ぶことが可能です。さらに、宅建試験に特化した講師から直接学ぶことができ、学習カリキュラムが構成されているため、効率的で有効な勉強方法といえます。
しかし、既にスクール側で勉強時間を定めているため、それに合わせて生活スタイルを変更しなくてはいけないデメリットもあります。
効率的に勉強をするには、過去の出題傾向をシッカリ把握することが重要です。宅建は、主に4つの科目に分かれており、それぞれ出題傾向が異なります。ここでは、それぞれの科目の内容も含めて出題傾向をご紹介します。
① 宅建業法
宅建業法(宅地建物取引業法)とは、消費者を守るために、公平に宅地や建物を取引することを定めた法律です。
この分野に関する出題傾向は、例年50問中、約20問出題されています。全体の問題の大半を宅建業法が占めていることから、この分野を重点的に勉強することで合否が大きく左右されるといえるでしょう。少なくとも18点取れる実力がないと合格は難しいでしょう。
② 民法
民法は、わかりやすく言い換えると、国民の私生活におけるルールブックです。個人として生活するうえでの権利や規律など、個人対個人の関わりについてのルールが定められています。
出題数は例年10問程度です。
民法の問題は1000以上の条文から構成されているため、すべて覚えるのは非常に困難です。よってここで勉強時間取られてしますとアウトです。民法で点数を取るのはあきらめてほかの分野に勉強時間を振り分けましょう。
③ 法令上の制限
法令上の制限とは、簡単に説明すると、不動産に関する制限の科目です。約8問の出題なので、上記の2科目と比較すると試験内容を占める割合は低めです。
専門用語や正確な数字をしっかり暗記しておくことで、この分野の出題に対応することが可能です。この分野を学習する際は、繰り返し専門用語や数字を暗唱しながら「覚える」ことに重点をおいてみてください。この分野は満点もしくは7点取れる実力がないと厳しいでしょう。
④ その他
宅建の試験の中では、不動産関係以外の税金に関する問題が出題されます。例えば固定資産税や贈与税などに関する問題です。
法令上の制限と同様の出題率のため、勉強時間をかけすぎないことが重要です。
(1) 各法律の種類や内容を暗記
(2) 過去問の重要なポイントをおさえる
この2点を重視して勉強してみてください。
一般的に、宅建を取得するために必要な時間は、300時間程度といわれています。つまり、1日3時間程度の勉強を3か月〜4か月程度勉強して取得できるレベルです。
ですが、これはあくまで確実に毎日勉強時間を確保できる場合の話です。
受験を検討している方の中には、業務が忙しく毎日3時間の勉強時間を確保することが難しい方もいると思います。そのため、ライフスタイルに合わせてトータル300時間を確保するようにしなければいけません。
例えば、毎日2時間しか勉強時間が確保できないなら、最低でも5か月を勉強期間にあててください。具体的に、試験が実施される10月ごろから逆算すると、遅くても5月から勉強を開始する必要があります。
もちろんこれはあくまで目安であり、それぞれ必要な時間は異なります。年に一度しかない試験ですので、試験当日までできる限りの時間を費やすことをおすすめします。